"Good Hope Road II. Pastoral"
Arshile Gorky
Thyssen Museum @ ティッセン美術館 This painting may be considered a typical example of his biomorphic abstraction, which anticipated American Action painting. He was Mark Rothko's teacher.
その名前を聞いただけで心が痛む作家がいる。 学生時代、神田の古本屋で必死で彼の画集を探し回った。 アーシル・ゴーキー。アルメニア出身。すでに悲劇の種を抱えている。 オスマン帝国のアルメニア人虐殺で母を殺され、アメリカに亡命。弱冠16歳。 絵に生きる道を見出す。大胆で自由奔放に見える彼の絵も実は緻密な画面構成の賜物である。それは彼のサインを見てもわかる。なんと慎ましやかで、まるで世に恥じているかのようだ。 彼はシュールレアリズムの旗手、アンドレ・ブルトンに無理矢理シュールレアリズムの画家に祭り上げられる。迷惑な話だ。フロイトの夢判断で過去の傷を掘り返すのはごめんだ。 むしろユングの言う自分の中にある「空想」によって彼は自分の生を必死でこの現実に繋ぎとめようとしたのだ。 やがて持ち前の才能と努力が実り、世に知られるようになる。 しかし不運の女神は彼を見つけ出す。決して放しはしない。アトリエの火事、癌の宣告、交通事故で利き腕の麻痺、妻が子供を連れて家出。もうだめだ。丁寧に最後の作品を仕上げた後で自死。44歳。