ボナール
1980年台になるまでスペインでは知られることがなかったフランスの作家ボナールの展覧会が、マドリッドのマフレ財団の展覧会場で開かれている。
日本だと大勢のファンで一杯であろうが、知名度の低さに加え、週日ともあってか会場は閑散としている。
会場に入るとすぐに、あふれる光と色彩が目に飛び込んでくる。私がかつて学生時代に夢中になった作家だけに感慨が深い。
周知のようにボナールは後期印象派のセザンヌ、ゴーギャンらの影響で結成されたグループ、ナビ(預言者)派に属している。
セザンヌの明快な古典的構築性とゴーギャンの装飾性に加え日本の浮世絵の影響、フランス人独自の中庸さとウイット、それにボナールの天性の穏やかで決して激さない感性が画面に定着され詩情あふれる表情を見せてくれる。
第一次第二次世界大戦を経験し、彼の結婚直後に10年来の愛人が自殺しているに関わらず、彼のキャンバスは幸福感に満ちている。
印象派の画家のように目の前に移ろっていく色彩をそのまま写し取ろうとしたのではなく、彼は周到に研究された暖色と寒色のバランスで画面を構成している。 また色は、印象派のように塗り重ねることを極力避けて斑点状に並置して塗られる。
塗り重ねる場合も下の色を完全に塗りつぶすのではなく軽やかに掠めるように塗り、その網膜上で混色される複数色は絶妙なハーモニーを奏でている。
またこうすることで色がくすむことなく軽快かつ明快な画面が出現する。まるでキャンバスの中から発光しているかのようだ。影の部分すら明るく、色彩の対比に還元されている。
そのためにキャンバスの下地の色も上に置かれる色に合わせて、白、グレー、(暖色、寒色)、緑までも使ってある。
要するにボナールにおいて初めてチューブ絵の具の利点が最大に生かされているといえる。
彼の絵の具の使用法はマーク・ロスコと似ているのは興味深い。